アメリカの労働市場が好調なのに株価が下落する理由を解説します
こんにちは
前回は米10年債利回りが上昇したことで、PERが下落し株価が急落したことについて簡単に説明しました。今回は続きから説明いたします。
これからの株式市場は好調な労働市場を背景に、株価が下落する
なぜ米10年債利回りが上昇の兆しを見せているのかということなんですが、先週末に発表された8月の雇用統計で失業率が予想を下回るなど、労働市場に改善の兆しが見えているからです。
そもそも雇用統計とは米国の雇用情勢を調査した統計のことで、米労働省が毎月第一金曜日に発表しています。
ここでは失業率や非農業部門雇用者数、平均時給の他、セクター別、年齢別そして人種別の就業者数など合計10数項目の指標を発表しています。
8月の雇用統計を振り返ると、失業率は予想9.8%に対して結果8.4%と予想より良かったです。
これで失業率は4カ月連続で改善しました。
米10年債利回りはこれを好感して上昇したんです。
ただし過去の平均は6%ですからそれと比べると依然として高水準であることがわかります。
また非農業部門雇用者数は要素140万人増に対して結果137万1千人増と予想を下回りました。
7月は173万4千人増と速報値の176万3千人増から2万9千人下方修正されました。
6月は478万1千人増と速報値の479万1千人増から1万人下方修正されました。
7月と6月分で合計3万9千人が下方修正されています。
非農業部門雇用者数は5月から8月までの4カ月間で、1061万人増加しましたが3月と4月の2カ月間で2206万人が職を失ったことを考えると、就業者数の伸びが鈍化しているのは懸念材料になります。
平均時給は予想+4.5%に対して結果+4.7%と予想を上回りました。
通常賃金が伸びていることは景気拡大を示唆する良いニュースなんですが今回の伸びは良い兆候とは言えません。
なぜなら新型コロナウイルスによる打撃を最も受けたセクターが比較的賃金の安いサービス業だからです。
つまり最も打撃を受けた人々が職場に復帰していれば平均時給は大きく低下するはずなんです。
そうであるにもかかわらず平均時給の伸びが依然として高水準であるということはサービス業で働く低賃金労働者が職場に復帰できておらず、リモートワークで仕事ができるような比較的賃金が高いホワイトカラー労働者が平均時給を押し上げていると言いるんです。
実際小売り業の就業者数は3月と4月に2345万人分の職が失われた一方で、5月から8月までの4カ月間で1729万人しか増えていませんから、未だおよそ4分の1の人々が職場復帰できていないんです。
またレジャー娯楽の就業者数も3月と4月で8074万人分もの職が失われた一方で、5月から8月までの4カ月間で4179万人しか増えていませんから未だおよそ半分の人々が職場復帰できていません。雇用の鈍化はサービス部門だけではなくて商品生産部門でも見られます。
建設の就業者数は3月と4月に1051万人分もの職が失われた一方で5月から8月までの4カ月間で
658万人しか増えていませんから今だおよそ4割の人々が職場復帰できていないんです。
また製造業の就業者数も3月と4月に1351万人分もの汚職が失われた一方で、5月から8月までの4カ月間で643万人しか増えていませんから、未だおよそ半分の人々が職場復帰できていないんです。
このように失業率こそを改善していますが、労働市場の回復には依然として程遠いことがわかります。
ただし改善の兆しが見えていないわけではありません。
そもそも雇用統計は遅行指標になるので、経済の先行きを占うことはできないんですが、
ある指標だけは先行指標になりえるんです。そしてそのある先行指標とは平均残業時間のことです。
なぜ平均残業時間が労働市場の先行指標になりえるのかというと、経営者は受注が増えて景気拡大の兆候が見え始めたら、それが持続的なものなのかあるいは一時的なものなのかを見極めるまでの間、フルタイム労働者を新規採用するのではなくて従業員に残業代を支払って、長時間働いてもらう傾向にあるからです。
そして景気拡大が持続的なものであると判断ができれば、割高な残業代を支払って従業員を酷使するよりも、新しい人を雇った方が安上がりなので採用活動を再開し、次第に雇用が上向き始めるんです。そのため平均残業時間は景気の先行指標になり得るわけですが、その平均残業時間は5月
2.4時間、6月2.5時間、7月2.9時間、8月3.0時間と次第に残業時間が増えているんです。
つまり労働市場は改善の兆しが見えていると言えるんです。
こうしたことから労働市場の改善が持続的なものであれば、米10年債利回りの上昇も持続的であることが予想される一方で、労働市場の改善が一時的なものであれば、米10年債利回りの上昇も一時的なものであることが予想されるので、投資家は労働市場の行方を見極める必要があります。
米10年債利回りの日足チャートをもう一度眺めると、1.05%の水準に200日移動平均線があることがわかります。つまり、短期的に見れば200日移動平均線をターゲットに上昇する可能性があり、仮にこれを上にブレイクアウトすれば株価が一段と下げることが予想されるんです。
しかし、これは少しおかしな話です。なぜなら好調な労働市場は株価の下落を意味することになるからです。とはいえこれまで金利が下がることでPERが上昇し、結果的に株高につながったことを考えれば、金利がが上昇することでPERが下落し、結果的に株安につながるのは自然だと言えます。
ですから、これからの株式市場は好調な労働市場を背景に、株価が下落するという摩訶不思議なことが起こると言えるんです。
次回はナスダック総合指数を例にまとめに入ります。是非、最後までお読みください。